それでもきっと
第1章 油揚げ
流石に長居しすぎたのか、こいつの仲間の兎と思わしき気配が割れた窓から感じ取れる。
ゆっくりと口を離すと、黒い兎は荒い息のままその場に座り込んだ。
「じゃ、ありがたく油揚げは貰うな」
黒い兎の口から溢れた涎を親指ですくいながらそう言って再び窓から外へと出た。
思った通り兎が何匹も様子を見守るようにしてこの家を囲んでいた。
その兎達の痛い視線をかいくぐり、家に着いたころには冷蔵庫に入っていた油揚げが生ぬるい温度になっていた。
一口かじると生ぬるくあまり美味しくない風味が広がった。
それと同時に、何故か兎とのキスも思い起こされてしまう。
まだ、感触が残っている。
あの時感じた背徳感も。
友人の感じたのと同じであろう興奮も。
まだ、口の中に脳内に焼き付いていた。