その手で触れて確かめて
第1章 白雪姫 (A × O)
幕が上がって、
物語は淡々と進んでいき、
白雪姫が毒リンゴを口にして倒れる、といった場面まで進んでいた。
両手を胸の前に組み、仰向けに横たわる大野智を取り囲む小人役の奴らの目がやたらと気になる。
と、言うのも、彼らもまた、王子役という「幸運」を逃し、
小人役、という王子役に準ずる「幸運」にありついていたからだった。
一方で…
「はあ!?キ、キスぅ!?」
素っ頓狂な声を上げる俺の口を、岡田の武骨な手が慌てて塞いだ。
「声、でけぇ、って?」
「だ、だってお前、今、誰と誰がキスする、って言った?」
「大野と俺♪」
口を金魚のようにパクパクさせる俺を見て、
岡田は勝ち誇ったようにほくそ笑んだ。
「しょうがないだろ?シナリオにあるんだからさ?ま、悪く思うなよ?」
俺の肩をぽんぽんと叩くと、
極悪人・岡田は鼻歌まじりで、
素知らぬ顔で、大野智と放課後の教室を後にした。
「はあ…」
かく言う俺は、
裏方の照明係という役割を担っている以上、
半ば仕組まれた茶番から目を逸らすことも許されず、
やるせない気持ちで、
岡田という狼に食べられようとしているいたいけな白雪姫・大野智を、
黙って見守ることしか出来なかった。
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