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その手で触れて確かめて

第5章 小さな恋の物語(O × O)



それから文化祭の当日まで、


大野智とは口をきくこともなく、



時々共にしていたランチの時間さえ、あえて、教室には残らず、


別の場所でとるようにした。



これ以上、心象を悪くしたくない、という思いと、



どこかでまだ、


彼とどうにかなりたい、なんて淡い期待を持っていたからだ。



そして、文化祭当日。



他のキャストたちが待ち構える教室へ、



衣裳を着込み、メイクも施して、準備万端整った大野智が姿を現した。



その彼が教室のドアを開けた途端、


その姿を目にした誰もが息を飲んだ。




それはそうだろう。



そこにいたのはクラスメートの『大野智』ではなく、




文字通り、物語世界から抜け出てきた『白雪姫』そのものだったんだから。




大野智は、自分の女装した姿にまったく恥じらう様子もなく、



優雅にドレスの裾を捌きながら適当な椅子に腰かけ、



自分の姿に呆けたように見惚れるクラスメートたちを威嚇するように睨み付けていた。





すげぇな…。ここまでとは…



「…正に『姫』じゃん?」



思わず、心の声が漏れ出てしまう。



でも、罪悪感からなのだろうか、



一人になりたい、と、



呟いた大野智の悲しそうな横顔が、





脳裏を過った。



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