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その手で触れて確かめて

第5章 小さな恋の物語(O × O)



「はあ!?キ、キスぅ!?」


今から数日前のこと。



素っ頓狂な声を上げる雅紀の口を慌てて塞いだ。



「しーっ!!声、でけぇ、って?」


「だ、だ、だってお前、今、誰と誰がキスする、って言った?」


「大野と、オ・レ。」



口を金魚のようにパクパクさせる雅紀に、俺はニンマリ笑った。



「しょうがないだろ?シナリオにあるんだからさ?ま、悪く思うなよ?」



雅紀の肩をぽんぽんと叩くと、



今、正に帰ろうとしていた大野智を呼び止め、


後を追うようにして放課後の教室を後にした。



それから後のことは、





さっき、語って聞かせた通りなんだけど…





幕が上がって、


物語は淡々と進んでいき、


白雪姫が毒リンゴを口にして倒れる、といった場面まで進んでいた。



両手を胸の前に組み、仰向けに横たわる大野智を小人役の奴らが取り囲む。



小人役の彼らもまた、王子役という「幸運」を逃し、


小人役、という王子役に準ずる「幸運」にありついていた輩だった。





「はあ…」



登場後、ほぼすぐキスシーンという山場が控えていたにも関わらず、









俺はユーウツだった。


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