その手で触れて確かめて
第6章 二宮氏の憂鬱
「うん…うん。そうなんだよ。」
「……。」
社長のあんな嬉しそうな顔、
久しく見たことなかったんで正直ホッとしました。
思えば、社長が、翔さんが笑った顔なんて、
翔さんが、高3の夏休みに突然海外に行くことになって、見送る者が私1人という時以来ですかね?
その時、日本を離れる理由を聞こうとしたつもりが、
私としたことが、こんな聞き方をしてまったんです。
「翔さんは、智さんのことが好きだったのですか?」と。
でも、翔さんはちゃんと答えてくれました。
「嫌いだよ。大嫌い!」だと。
寂しそうに笑いながらですけど…
「うん。わかってる、って?うん…うん、じゃ、また…」
スマホを一旦耳から離し、大きく伸びをしてから、
また、どこかへとかけた。
「あ、俺だけど。今日は何か買ってくるものとかある?…あ、そう…えっ?マジで!じゃあ、今日は早く帰るよ。うん。じゃ。」
おや、奥さまへの帰るコールですか?
しかも、いい雰囲気じゃありません?
翔さんは、
電話を切るといきなり椅子から立ち上がって、
気合いを入れ直すように頬をぺしぺし叩いた。
そして、気合いの一言を口にするのか、と思ったら、
「今夜は高級赤貝が俺を待っている!」
「・・・・・」
…良かったですね?社長。
作品トップ
目次
作者トップ
レビューを見る
ファンになる
本棚へ入れる
拍手する
友達に教える