その手で触れて確かめて
第6章 二宮氏の憂鬱
「智さん、ありがとうございました。」
『ったく…俺もそんなヒマじゃねぇんだよ!?』
苛立っているような言葉とは裏腹に、
智さんの声はとても穏やかな気がした。
『二宮…。』
「はい。」
『俺、こんなこと言える立場じゃないけど、翔のこと、頼むな?』
電話の向こうからは、
静かに寄せては返す波の音だけしか聞こえてこなくて、
まるで、彼と肩を並べ白い砂浜に腰を降ろして、
空の青を忠実に映し出したように透明なコバルト・ブルーの海を眺めて話しているかのようだった。
「…分かりました。」
『アイツ、しっかりしているようで、ちょっと抜けてっから。』
「ぷっ。そうですね?」
『それと…』
「はい?」
『…やっぱ、いい。』
「心配しなくてもお元気ですよ?」
『バーカ!誰の話してんだよ?』
「知りたかったのではありませんか?」
『他人の心配はいいから、自分の心配しろよ!?お前もいい年なんだからさ?』
「そうしたいのは山々なんですけど、如何せん、姉を越える女性に中々巡り会えなくてですね?」
『あのな、お前の姉貴を基準にしたらほとんどの女が対象外になるだろが?』
「おや?言いますねぇ…。残念ながら誉めても何も出ませんからね?」
『はなっから期待してねぇわ!?…と、来た来た♪』
智さん、忙しい、って…
今何してらっしゃるんですか?
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