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その手で触れて確かめて

第10章 お2階さん。( A × N )



あ、あれ?


何も言わないで手渡した、ってことは、いつでもいいのかな?



でも、



同じアパートの住人だから、すぐ返すのが当たり前、とかって感覚なのかな?


俺は、閉じられたドアの向こうの彼の思惑に思いを巡らせながら、



借りた酢を握りしめ部屋に戻った。





結局、その日の晩飯を美味しくいただいた俺は、



借りてきた酢のことなどすっかり忘れて、





大学の入学式の日を迎えた。





その日は、殆どの新入生が父兄同伴で出席する中、



当日は俺一人で式に臨んだ。



と、いうのも、この大学のある○○市、



冬には雪が降る。



それが何か?って思うでしょ?



昔、家族でこの辺を、親父の運転で遊びに来た時、


季節外れの大雪に見舞われて渋滞で車が動かず、



窮屈な一夜を車の中で過ごした。



それゆえウチの親父は、


俺がここの大学を受験する、って言った時はいい顔もしなかったけど反対もしなかった。



ただ、「命が惜しいから、もう2度とここには来ない」とか訳の分からない理屈を振りかざして入学式の出席を拒否った。



でも、母ちゃんは行こうか?って聞いてきたけど、


大学の入学式ぐらいだったらいいか、って思って、


結局は俺の方から断った。



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