その手で触れて確かめて
第1章 白雪姫 (A × O)
Aside
席は確か、俺が一番窓際の列の一番前で、
彼はその列の一番後ろだった。
そのことに気付いたのは、
アンケートのプリントを一番前の俺が後ろの連中に回そうと振り返った時。
頬杖を付き、開け放した窓から入ってくる春の風に少し長めの前髪をさらさらと風に靡かせている整った横顔。
約30分後、今度は逆にアンケート用紙が後ろから前に回されて来て、
一番後ろの彼が書いたものは、
アンケート用紙が裏返しで回って来ていたため、
それを表に返せば必然的に一番上のものはあの彼が書いたもので、
パッと見ただけだったが、綺麗な文字でびっしり書かれてあった。
目を惹く外見に、目を惹く文字。
惜しむらくは、このアンケート用紙、名前を書く欄がなくて、
一瞬で自分を虜にしてしまったこのミステリアスなクラスメートの名前を、
俺はこの時知ることが出来なかった。
それからは彼と挨拶を交わすわけでもなく、雑談をするわけでもなく、
同じ教室で過ごしていく日々の中、
大企業を経営する家の長男であること、
3人兄弟であること、
そして、彼の名前が大野智、ということを知った。
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