その手で触れて確かめて
第14章 インクルージョン (A × O)
智side
「先生、おはようございます。」
「おはよう。」
朝の通学路。
2人の女子生徒が僕を追い越してゆく。
非常勤の美術の講師としてこの学校にやって来てはや半年。
その、半年前、ある人との運命的な出会いがあった。
「えっ…と、校長室は…」
だだっ広い学校。
方向音痴の僕にとっては、校長室を探すのも一苦労で、
田舎から東京に出てきたおのぼりさんさながら、
僕は校内をうろうろしていた。
誰かに聞こうにももう授業時間は始まっていて、
校内には人っ子一人見当たらなかった。
グラウンドで元気よく走り回っている生徒の姿を横目で見ながら、
方向音痴、ってのも考えものだなあ、と、一人大きなため息をついた。
しばらくグランドを眺めていると、
体育の授業なのか、サッカーボールを追いかける男子学生の中の一人が、
そらしたボールを追いかけ、こちらに向かって走ってきた。
その子は、明るい髪色に似つかわしい明るい笑顔で、
僕と目が合うと、ペコリ、と頭を下げまた戻って行った。
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