その手で触れて確かめて
第19章 俺のアニキ(M × S )
俺は再びボールを蹴ろうと少し後ろに下がった。
その瞬間、その声は聞こえた。
智「おい!!何やってる!?」
智が鞄を放り投げ、俺たちの間に割って入ってきた。
くそ…もう少し痛い目を見せてやろうと思っていたのに智のヤツ…。
俺は小さく舌打ちすると鞄を小脇に抱え走り去った。
あのあと、塾には行くには行ったけどずっと上の空で、
どうやったらアイツがこの家から出ていきたくなるのか、頭の中はそれでいっぱいだった。
「ただいま…。」
俺が帰宅した時には智もアイツも家にいなくて、
家政婦が夕飯の支度が出来ているというので、一旦部屋に戻ろうとした時、二人が家のドアを開けて入ってきた。
智に抱き抱えられるようにしていたアイツが顔を上げた時、俺と目が合った。
赤く泣き腫らした目と涙で濡れた睫毛に、何故か胸がチクリと痛んだ。
な、何だよ!?そんなに泣くことだったのかよ?
だが、ふい、と顔を逸らすヤツの隣にいた智の責めるような視線に、降って湧いたような罪悪感は一瞬で消え去る。
「…大袈裟なヤツ。」
俺はぼそりと毒づくと、そのまま一気に階段をかけ上がっていった。
そして、その日はそのまま口を聞くことなく一日が終わった。
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