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その手で触れて確かめて

第4章  戸惑う唇(O × S)



俺の言葉に、翔は少しはにかんだように笑ってくれた。



…よかった。やっと笑ってくれた。



ただ、それだけなのに嬉しくて、



こんなに満たされた気持ちになったのはどれくらいぶりなんだろう、と、



俺は芝生の上で膝を抱えたまま、空を仰ぎ見るように目を閉じていた。


はー、気持ちいい…



顎を仰け反らせてさらに顔を上向けると、



心地のいい微風が髪をさらさらと撫でるように通りすぎていった。



ふと、翔の視線に気づいて、微笑みながら見つめ返すと、



やっぱり、すぐに顔を逸らされてしまう。



「潤のことなら気にすんなって。」


「えっ!?あ、うん…」


「アイツ、あんなこてんぱんにしてやられた経験があんまりないから。」


「う…うん。」



潤のことが気になってる訳じゃないのか?


ま、いっか。


この様子ならコイツとはやっていけそうだ。



「んじゃ、俺も塾の時間だし。」



ズボンの埃を払い落として立ち上がる。



「翔はこのあとどうするんだ?」


「え?あ、特には…。」

「ふーん。ま、来たばっかだしな?今日は疲れてるだろうからゆっくりしろよ?」


「でも、荷物とか片付けないと…。」


「そっか。んじゃ、俺、もう行くな?」



翔の肩に手を置くと、塾に行く支度をしに、家の中へ入った。



その様子を弟の潤が、





苦々しい思いで見つめていたことにも気づかずに。


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