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その手で触れて確かめて

第4章  戸惑う唇(O × S)



まず、顔を洗おうと洗面所へ向かう。



入ってすぐ、上半身が映る鏡の前に立って何気に自分の顔を見てみる。



いつもと変わらない、


いつもの自分がいる。



少し違いを探そうとするならば、



起き抜けで少し色つやの悪い顔色ながら、うっすら色づいた唇が目につく。



しかも、



…気付いたら、指先でなぞってた。



不意に我に返って、鏡に映った自分の姿に赤面する。



…俺、何やって……?



何かを振り払うかのように、



思い切り水を出し、バシャバシャと大きな音をたてて顔を洗った。





弟たちが起きてくるまでの間、


コーヒー片手に新聞に目を通すのが朝の日課だ。



けど、今朝は少し違う。



どんな顔をして、翔に相対したらいいのか、



目は、新聞の活字を追っているように見えて、



その実、何も見てはいなかった。



やがて、誰かに見られているような気がして顔をあげると、


階段の途中に立ち尽くしている翔と目が合った。



「お、おはよう、翔。」



精一杯の笑顔を作って見せる。



すると、翔も、僅かに唇の端をあげ、小さな声で挨拶を返してくる。





そうして、俺たちは、



何事もなかったかのように、



朝食を共にし、



学校に向かった。




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