その手で触れて確かめて
第4章 戸惑う唇(O × S)
無意識だったんだけどな…。
岡田の目の前だということも忘れて、
気持ちは、昨夜のあの時間へと飛んでいた。
そういえば…
髪に、頬に密やかに触れて、
瞼を経て鼻筋を滑り落ちて行く指先を感じたと思ったら、
ついに唇に触れた。
上唇をなぞり、下唇をゆっくりなぞりながら一端離れていって、
そして、熱く、戸惑いながら、
ゆっくり、震えながら柔かいものが唇に重なって、
名残惜しそうに、でも、戸惑うように、
離れていって……。
……何だ、俺、覚えてんじゃん。
寝ぼけてなんかなかった。
ちゃんと体が記憶していた。
「智…?」
心配そうに呼びかける岡田の声に我に返る。
「は?え…何?」
「熱でもあんのか?顔、赤いぞ?」
慌てて顔を逸らす。
「いや…何でもないから。」
「ふ…ん。あ、そ。」
自分の席に戻ろうと、岡田が立ち上がりがてら耳元で小声で囁く。
「俺でよかったらいつでもOKだから。」
ニヤニヤしている岡田の頭の上に思い切り六法全書を振り落とす。
「いって…テスト前なんだから加減しろ、って?」
「お前がエロいこと言うからだろが!?」
「へぇ…やっぱ、エロいこと考えたのか?」
内心、舌打ちする。
「うるせえな!?早く自分の席に戻れよ!」
俺からの第二撃をまんまとかわした岡田が笑いながら去っていく。
そうしてまた、
戸惑いながらもその指先は、
いつの間にか唇をなぞっていた。
『戸惑う唇』end.
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