テキストサイズ

リモーネ

第3章 卯の花とフユベゴニア

かえで先輩の「県立第二の武道館で待ってるよ」と言う言葉が、声が、表情が、情景が、俺の頭に張り付いてはなれなかった。

それもあって、かえで先輩に宣言した県立第二に行くことは成績優秀な喜一にも助けられながらどうにか県立第二に合格し、武道館でかえで先輩との再会も果たし、

さぁ、剣道頑張るぞ。

と意気込んでいたのもつかの間。

もうすぐ5月になると言うのにほとんどまともに剣道をしていない。

入学式の部活紹介で、数年前から県のベスト8以上に居ますと言っていて、
県立第二の剣道部は強いんだ。

と改めて思っていたのに、どんなすごい稽古なんだろうと興味津々だったのに。

期待してたのに。なんだこれは。

面をつけるのは一週間の内、一回か二回。
それ以外は今日みたいに鬼ごっこになったり、泥警になったりする。

「…はぁ…。」

着替えながらそんなことを考えて、溜め息をつくと、かえで先輩がからかってきた。

「セナちゃん。考え事ばかりしてると…禿げるよ。」

「!!!!」

なんて失礼な先輩なんだ!

更衣を終えていたかえで先輩が俺のリアクションに満足したのかケラケラと笑いながら更衣室を出ていくと、入れ違いに神崎先輩が入ってきて、

「はい、着替えるの最後のセナちゃんが鬼ね。
10秒数えたら追いかけてきてね。」

と、俺が鬼ごっこの鬼宣告を受けた。

「え…はい…?」

俺が突然のことに驚いていると、かえで先輩が心底心配そうな顔で俺を見て、

「ちゃんと、10秒数えてから…来るんだぞ…?」

なんてまたもや疑い深い顔で失礼なことを言う。

「俺なんかしましたっけ!?」

さすがにちょっとイラついて、強めに返すとかえで先輩は気にする様子もなく、

「うーん。
…あ、セナちゃん。髪に花付いてるよ」

なんて言いながら俺に近づいて髪から赤色の髪飾りをとる。

「いや、これ、かえで先輩がつけたんですよね」

もうこれにはあきれて半笑いで返す。

「きゃぁーセナちゃんかわいいのにこわぁい♡」

なんて口に両手をあてなからいう。

「俺は!男です。可愛いわけがないじゃないですか。
それに怖くもありません。
と言うかもう、ちゃん呼びやめてください。」

なんでこの人はこんなにもめんどくさいんだ。と苛立ちを感じながら気になっていた、ちゃん呼びをやめるように促した。



ストーリーメニュー

TOPTOPへ