飴と鞭と甘いワナ
第1章 scene Ⅰ
あ…やっちゃった
周りが見えなくなると、自分の要望を何の説明もなく押し付けちゃう…俺の悪い癖。
そして、言い方もどうにも強気になってしまうんだ。
ソイツも例外ではなく、まさに
『何言ってんの、コイツ』って顔をしている。
いや、俺こそ何やってんだよ
いきなり腕掴んだ挙げ句に「カットモデルやってよ」って
新手のキャッチかっつーの。
だけど違ったのは
ソイツは少し考えたように黙り込んだ後
「…いいよ」
そう言って笑ってくれた事。
その笑顔は、汚い格好に似合わない位に
輝いて見えた。
店内に入った途端
「ねぇ…俺、お金そんなに持ってないンだけど…」
キョロキョロと店を見回しながらソイツが言った
「カットモデルだから、タダ!シャンプーも全部タダ!」
コイツ…カットモデル、知らないのか
そうだよな
こういう場所とは無縁そうだし
「マジで?」
「その代わり、スタイルは俺が決めるけど」
「切ってくれンなら、何でもいいよ」
ニカッと笑って、「ラッキーが来た!」なんて言うから
つられて俺も笑ってしまった。
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