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じんちょうげの花咲く頃

第6章 エピローグ ①



その時、碧は樹里さんの膝の上で静かに寝息を立てていた。



でも、僕らのそんなやり取りのさなか、突然大きな目をぱちりと開け、犬のように鼻をくんくんならした。



碧「いい匂いがする。」


と、さらに周囲をくんくん嗅ぎ回る。



でも、うーん、と、小さな頭を捻る。



樹「どんな匂いがするの?」


碧「うーん、わかんないけど、スゴくいいにおいがするの。」



碧は立ち上がって窓の外を見て、何かを思い出したように駆け出す。



「碧?」


樹「碧、どこ行くの?」



立ち上がりかけた樹里さんを制しながら碧の後を追いかけると、



小さな碧の姿は庭の片隅にあった。



その彼女の目の前には、赤紫色の可憐な花弁を小さな手鞠のように散りばめ、芳しい香りを放つ花。



「碧、こんなところに…」


碧「あ、おにいちゃん、このお花、なんていう花?」


「これはね、じんちょうげ、って言うんだよ?」


碧「じんちょうげ?」


「そう、じんちょうげ。」


碧「いいにおい。」



碧は花に顔を近づけ、いつまでも花の香りを楽しんでいた。



碧「このお花…」


「うん?」


碧「らいねんもさくかなあ?」



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