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じんちょうげの花咲く頃

第1章 じんちょうげの花咲く頃、君と出会う。



「零くん、めぐむが騒がしくしてごめんね?」



叔母さんは、小さな子供のようなあどけない寝顔を膝の上で晒すめぐむちゃんの髪を撫でながら苦笑した。



「いえ…」


「この子、学校があるのにどうしても一緒に来る、って聞かなくて。」


「そうだったんですか…」


「ね、零くん。考えてくれた?あの話。」


「あの話?って。」


「東京に来ないか、って話。」


「………」



『大学出て、叔父さんの会社で働いて…』



そう言えば、あの時、母さんは何を言おうとしていたんだろう?



「零くん?」


「え?あ、はい。すいません。ボーッとしちゃって。」


「いいのよ、私の方こそこんな時にこんな話をしてしまってごめんなさい。」


「いえ…」


「めぐむがね、零くんと同じ大学に行くんだ、って…。零くんにも選ぶ権利ぐらいはあるでしょ?って言っても聞かなくて…ほんとにいつまでたっても子供なんだから…」


「そう…ですか…」





東京には行かない。





地元に就職して、この地に根を張り生きて行く。





今ではすっかり涙が乾いためぐむちゃんの丸い頬。





また、その頬を涙で濡らすことになりそうで、





僕はそれらの言葉を飲み込んだ。



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