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じんちょうげの花咲く頃

第7章 エピローグ ②



碧「あー、今年もいい香りがする♪」



少し大袈裟なぐらいに碧が鼻をクンクン鳴らすと、



立ち上がり、玄関で靴に履き替え外に飛び出して行ってしまった。



「まったく…しょうがないな…」



取り引きだなんて、突拍子もないことを…



苦笑しながらやんわりと立ち上がり、碧の後を追いかけた。



飛び出していった彼女の姿は、庭の片隅でひっそりと咲き、



けれども、その存在を主張するように雨上がりの午後は一際強い香りを放つ、可憐な濃赤紫色の花の前にあった。



声をかけようと、前に進み出ると、後ろから声をかけられた。



め「あのお花、何ていうお花ですか?」



振り返ると、



あの日、あの時と変わらぬ笑顔の君。



「じんちょうげ、っていうんだ?」


「じんちょうげ…スッゴいいい匂いがするね?」



ねー?と、



彼女と、彼女と手を繋いだ小さな女の子が微笑みながら顔を見合わせた。



め「ごめんなさい。遅くなってしまって。」


「気にしなくていいよ?」


凛「あっ!!碧ちゃんだぁ♪」



めぐむの手を離れ、元気よく駆け出す我が子の姿に目を細める。



「…行こうか?」


め「…うん。」



小さな手を繋いでいた手を、今度は僕が握りしめ歩き出す。





僕の両親が手を伸ばしても届かなかった幸せに、





やっと、掴んだ幸せを手離さないように、







そっと、ぎゅっと、ずっと、強く。







『沈丁花の花咲く頃』end.


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