じんちょうげの花咲く頃
第1章 じんちょうげの花咲く頃、君と出会う。
その日は切れ間なく、母さんの早すぎる死を悼む人たちが訪れて、
おばあちゃんと叔母さんはその対応に追われていた。
それを見ためぐむちゃんも手伝いを買って出てくれて、上手く立ち回ってくれた。
僕は、と言えば、
物言わぬ母さんの側で、
訪れる人が一様に口にする言葉、
『可哀想に。これから大変やろうけど頑張って。』
を、口にし、立ち去ってゆく人々を見送っていた。
「零ちゃん、今のうちに何か食べとく?」
人波の切れ間におばあちゃんが声をかけてきた。
「うん…」
「用意するし。ちょっと待っとって?」
食欲があった訳じゃないけど、
この調子だと、訪れる人はまだまだ多そうだし、
少しでもお腹にいれておこう、って思った。
「………。」
ふと、白い布に覆われた母さんの顔に目がいってしまう。
『零ちゃん、どうする?お母さんの顔…見たい?』
どういうことなんだろう、ってあの時は思ったけど
あれは、見ない方がいい、とのおばあちゃんなりの遠回しな言い方だったのだ、と、
訪れる人々の言葉で理解できた。
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