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じんちょうげの花咲く頃

第1章 じんちょうげの花咲く頃、君と出会う。



生まれた時から、僕には父親がいなかった。



そのことを、幼かった僕はさして気に止めてもいなかったし、



そのことに関しては母さんも特に言及することもなかったし、不自由だと感じたこともなかった。



保育園のお遊戯会だって、


仕事で来れない母さんの代わりに、成海の大叔父や大叔母が来てくれていたし、



若干の違和感を感じただけで特に何も不自由な思いもしていなかった。





けれど、成長するに連れて、


周囲の大人たちの話が理解できるようになってくると、



ああ、やっぱり、自分は特殊な家庭環境の中に置かれていたのだと自覚することができた。





そうした中、成海の大叔父が亡くなって、



東京に住んでいるという、 僕の父親の弟の家族がやって来た。



叔父は東京で会社社長をやっていて、


その会社は、元はといえば、僕の父親が継ぐはずだった会社だったのだ、という。



だが、自分にはその資格がないのだ、と言って、



彼は、今は、日本から遠く離れた、赤道付近の風光明媚な小さな島にその身を置いていた。



叔父は、数少ない親戚の一人である大叔父の葬儀に、ついに参列しなかった僕の父親の話になると、





その端正な顔をしかめた。




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