テキストサイズ

じんちょうげの花咲く頃

第2章 恋文



でも、空港で、



父さんは母さんの名を呼んだ。



最後に、母さんの姿を求めた。




その母さんは、行きたかった、って思っていたのに結局行かなかった。





膝が震えるほど、会いたがっていたのに…。





そのあとのことは、一緒にその場にいた叔父夫婦から聞いたこと。



出発の時を迎え、


赤ん坊だった僕を叔父夫婦に託した父さんは、



僕に背を向け去っていった。





その姿が完全に見えなくなった後、



僕が、火がついたように泣き出したらしい。



抱っこしていた叔母は驚き困り果て、



叔父は、人波の中に消えた背中を追いかけた。



でも…



その背中を捕まえることはできなかった。





自分がツラい思いをしたんなら、どうして自分の子供にまでおんなじ思いをさせるのだろう。





お父さん、



僕があなただったら、





自分の子供にそんな寂しい思いなんてさせない。



好きな人にそんな切ない思いをさせたくない。





大切な人たちと離れて生きていくなんてできない。



でも、もし、あなたの中に、



僕と母さんのこと以上に守るべき想いがあったのなら…



…知りたい……聞きたい。











直接、あなたから……。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ