じんちょうげの花咲く頃
第1章 じんちょうげの花咲く頃、君と出会う。
お世話になっているのだから、と、何度も説得したらしい。
現地へ言って、首根っこを捕まえ連れてくることも考えた、と。
どうしてそんなに頑ななのか、と、いう話になると、
僕の側でしている時に限り、
皆、一様に口を噤んだ。
父さんが帰国を拒む理由。
ハッキリと分からないけれど、
自分にも何かしら関係があるのだと思った。
葬儀も終わり、激しかった雨も、成海の家に着いた頃には、小降りになっていて、
傘に当たっていた大粒の雨は、
今や、音もなく傘の上を滑り落ちていくほどになっていた。
叔父夫婦が慌ただしく帰り支度をしている中、
ぼんやり外の景色を眺めていると、
広い庭の片隅に薄いピンク色の傘が目についた。
それは、時折くるくる回ったり、低くなったり、と目まぐるしく動いていていて、
興味を駆られた僕は、いつの間にか傘を手に外に飛び出していて、
そのピンク色の傘を持つ人物の元に駆け寄っていた。
傘に当たる、雨粒の音で人の気配を察したのか、
ピンクの傘の持ち主が振り返る。
「これ、何ていう花?」
肩まで伸びた髪を耳にかけながら、
彼女は、庭先に咲く小さな花を指さした。
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