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じんちょうげの花咲く頃

第2章 恋文



まさか…この人……?





胸の高鳴りを感じながら、



その後ろ姿に近づく。



一歩、また、一歩と。





そうして、ニ、三歩足を踏み出したところで、



こちらの気配に気がついたのか、



その細い背中がぴくり、と動き、





こちらを振り返る。








その顔は、初めて見る顔なのに、





何故か懐かしいような気がして、



何故か落ち着いた。





まさか…まさかだけど…



この人は…



この人は僕の…



「あの…間違っていたらごめんなさい。」



こくりと小さく喉がなる。



向こうも、僕の顔を見つめたまま目を見開き微動だにしない。





「あなたは…あなたの名前は…」



その人の目がさらに大きく見開かれ、



形のいい唇が、何か言いたそうに動いたかに見えた。



「大野……智……さんではありませんか?」



が、その唇からは、



まだ、言葉という音を伴って出てきてはおらず、




小刻みに震えるばかりだった。



「大野智さん……ですよね?」



今度は少し距離を詰め、


その人の姿形を確認する。



「僕……水澤零、って言います。」


「水澤……零?」


「はい。水澤環の息子の零です。」



その人は、そのままの表情のまま、僕に歩みより、


傍近くまで来ると、その、細くてゴツゴツした手を僕に向かって伸ばした。



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