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じんちょうげの花咲く頃

第2章 恋文



「君が……君が環の…」


「はい。息子です。」



その人は、



僕に向かって伸ばした手で、



僕の顔に、肩に、手に触れた。



「環の……俺の……」





そうして、握りしめた手を何度も何度も握り直して手を離すと、





力強く抱きしめてくれた。





「零…っ!?こんな…こんなに大きくなって…」


「はい………。」



肩越しに聞こえてくる、


咽び泣く声に胸が締め付けられる。



「ずっと……忘れたことはなかった。会いたくて…空港で別れた時からもう、ずっと会いたくて……。」



男の人には珍しい、綺麗な泣き顔。



しばし、見惚れてしまっていた。



「環が……死んだ、って聞いて余計に会わなければ、って思って…」



僕から体を離すと、お父さんは涙を拭った。



「勝手過ぎるよな?ほったらかしといて今さら、って思ってるだろ?」


「………。」



確かに、そんな気持ちもなかった訳じゃない。



それだけ、母さんとの日々の生活が僕にとって充実したものだったし。



でも、その母さんがいなくなった今、



不安しかない、と言っても過言じゃない。





そういうこともあったせいかもしれない。





お父さん、あなたに会いたくなったのも…。

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