テキストサイズ

じんちょうげの花咲く頃

第3章 返歌



変な話なんだけど、



自分の父親なのに、こんなにも顔立ちの整った綺麗な男の人を見たのは初めてで、



真剣に文字を目で追う表情さえ美しい、って思った。



僕の父親を知る回りの大人からは、年を追うごとに僕が父親に似てくる、って言われているにも関わらずに。





時には眉間にシワを寄せ、



時には鼻で笑う。



でも、僕は、微かに口元を綻ばせ目を細めた時の顔が一番好きだった。





この人を見ていたら、人間、やっぱり笑った顔が一番美しいのだと分かる。



しばらくすると、丸めていた背中を僅かに起こし、


パタン、と日記を閉じた。



そして、振り向きざまに僕に一言、こう言った。



「お母さんは優しかったか?」


「あ…は、はい。」



びっくりして、姿勢を正し座り直した。



「そうか。よかった。」


「でも、厳しいところは厳しかったけど?」


「俺にはいっつも厳しかったなあ…。」



と、柔らかく微笑みながら母さんの写真を見つめた。



「だから、泣いた顔と怒った顔しか思い出せないんだよ。」


「………。」


「でも、こんな風に笑ってたんだなあ?って。」



ストーリーメニュー

TOPTOPへ