じんちょうげの花咲く頃
第3章 返歌
父さんは、
母さんの写真を見つめたまま黙り込んでしまった。
でも、
僕には、二人が、
どんな言葉を使って表現したらいいのか分からないけど、
時間だとか、距離だとか、色んなものを飛び越え、今ここで語り合ってるように見えた。
それを裏付けるかのように父さんは、少し照れたように笑いながら写真から顔を逸らし俯いたりしていた。
でも、また、顔を上げて笑う。
知らない人が見たら気持ち悪く思うかも?って感じだけど、
僕には、
二人の間には、
誰にも入り込めない、
誰にも侵すことが出来ない、
二人だけの世界が存在するように思えた。
「零。」
「えっ!?あっ、はい?」
急に名前を呼ばれて我に返る。
「お前はこれからどうするつもりなんだ?」
「どうする、って…」
口籠っていると、
父さんは振り返って僕を見た。
「翔に……叔父さんに東京に出てこないか、って誘われてるんだろ?」
「はい…」
「お母さんにも言われてるんだろ?」
無言で頷く。
「零、お前は……」
僕と似た目で、
僕と似た唇で、
力強く問いかけてくる。
「……どうしたい?」
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