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じんちょうげの花咲く頃

第1章 じんちょうげの花咲く頃、君と出会う。



彼女が指差した花。


それは、鮮やかな赤紫の、一際芳しい香りを放つ小さな花だった。



「じんちょうげ、っていうんだ?」


「へぇ、沈丁花…スッゴいいい匂いがする。」



彼女は、その花の高さに合わせるようにしゃがみ、


さらに香りを吸い込むように顔を近づけた。



「今日みたいな雨模様の天気の時は特に香りが強くなるんだよ?」


「じゃあ、私、ラッキーだったってことね?」



そう言って微笑んだ彼女に、僕はその小さな赤紫色の花枝を1つ、手折ってやる。



すると、彼女の顔がパアッと輝いて、



うっとりとした表情で手のひらを顔に押し当てた。



彼女は、玄関から自分の名を呼ぶ声に気づき、



挨拶もそこそこに、その場を後にした。







「さっき、何話してたの?」



礼服をハンガーに掛けながら母さんが話しかけてきた。



「いつ?誰と?」


「庭でめぐむちゃんと。何だか、楽しそうだったじゃない?」


「ああ。この花、何ていうの?って聞かれたから沈丁花だよ?って、教えてあげてたんだ。」


「そう…」



母さんは、笑顔から真顔になると、



僕に、話があるからと、



僕の目の前に正座した。

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