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じんちょうげの花咲く頃

第3章 返歌



結局父さんは、



待たせていたタクシーを帰らせ、今晩一晩、僕と母さんが住んでいた家に泊まることにした。



「零、寝たか?」


「起きてる。何?」


「旨かったな…あれ…トマトとキュウリの…。」


「トマト料理はおばあちゃんのオリジナル。ちなみにキュウリは味噌汁にいれることもあるんだ?」


「サラダにしか使ったことないな。」



常夜灯の薄暗い光の中、他愛のない話で盛り上がる。



「ね、父さんの住んでる島、って、サメ料理が有名だ、って聞いたことがあるんだけど?」


「うん。意外に旨いぞ?」


「どんな感じなの?」


「唐揚げとかにしたら食感がフワフワしてるんだ。」


「へー…」



想像できない。



「な…考え直してみないか?」


「何を?」


「俺のところに来る、って話。」


「でも…」


「翔に何か言われてんのか?」


「じゃなくて、あの人…」


「あの人?」


「あの綺麗な女の人。父さんを追いかけていく、って言ってた…」


「樹里のことか…」


「どうして結婚しないの?」


「お前には関係ない。」



父さんは、



布団を頭から被ると、



僕に背を向けてしまった。


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