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じんちょうげの花咲く頃

第1章 じんちょうげの花咲く頃、君と出会う。



「あの話…叔父さんがあなたに東京に出てこないか、って言ってくれてる話、考えてくれた?」


「またその話?」


「そう。もし、東京の大学に行くんだったらの話だから…」


「前にも言ったじゃない?僕、卒業したら地元に就職する、って?それに、おじいちゃんがもういない訳だし、男手だって必要でしょ?」


「そうだけど…」



母さんは、困ったように笑った。



「…どうしたの?まだ、何かあるの?」


「その…就職する、って話なんだけど、叔父さんが将来的にはうちの会社で働かないか、って?」


「叔父さんの会社に?」


「もちろん、大学は出ててほしいから、大学に進学する時の面倒はすべてこちらでみるから、って?」


「そう…」



大学はいきたい。もっと勉強したい。



でも、朝から晩まで汗だくで働いて、泥のように眠っている母さんを見てしまったら、



とても言えなかった。





でも、そんな僕の気持ちを見透かしたように、東京の叔父が手を差し伸べてくれようとしている。



そうまでして進学しようなんて気持ちはないから、ってことは母さんには何度も伝えた。



そんなことしたら、今まで女手一つで育ててくれた母さんに申し訳なかったし、





何よりも、





ここから離れたくなかったから。


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