じんちょうげの花咲く頃
第3章 返歌
「ちょうどよかったわ。今、ウチ、行こうと思っとったさかい。」
と、そのおじさんが、助手席をちら、と見た。
「ほら、キヌさん、迎えに来てくれとるよ?」
「お、おばあちゃん!?」
慌てて助手席を覗き込むと、
虚ろにこちらを見るおばあちゃんと目が合った。
「大丈夫?おばあちゃん、」
僕の声が分かったのか、おばあちゃんが生気のない目でこちらを見た。
「ここは…あの世かいね?」
「え…?」
「なぁに寝ぼけとるん?あの世でもなんでもないわい。」
「そやけど、アンタ、さっき、迎えが来た、言うとったがいね?じいちゃんでも来たんか、思ったがいね!」
「アホらし。ま、いいわ、ウチまで乗したったるさかい。大人しく座っとれ。」
「あの…おばあちゃん、どうしたんですか?」
ああ、と、おじさんは、
隣のおばあちゃんに聞こえないように、との気遣いなのか、
小声で教えてくれた。
「じいちゃんの墓の前で倒れとったんや。」
「倒れてた?」
「疲れとったんや!それを大袈裟な?」
「よう言うわ?さっき、話しかけとったけど反応なかったやろ!?」
おばあちゃんを家まで送っていくからと、
僕は、走り去る軽トラのテールランプを黙って見ていた。
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