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じんちょうげの花咲く頃

第3章 返歌



「キヌさんがこんなときにごめんな?でも、こんなときでないとアンタもピンとこんやろ?」


「そうですね…」



そんなこと、イヤでも分かってる。



僕がここに残りたい、本当の理由は、



高校を卒業したら、どんな仕事でもいい。



漁師見習いでも、コンビニ店員でもいい、



はるばる東京からやって来た訳あり親子を温かく迎え入れてくれて、



母さんが亡くなった後も僕の行く末も心配してくれる。



そんな、温かい人たちに、



土までもが優しい、と、吟われるこの土地に、



骨を埋めてもいい、と思うことがそんな浅はかに見えるんだろうか?



と、内心悔しかった。



「せっかくあんないい高校入れたんやし、将来のこと、もうちょっと慎重に考えてみたら?」



家に着き、また、病院まで送ってくれる、というおばさんの言葉に甘えて、着替えのほか、病院からもらったマニュアルにそって必要なものを大きめのバッグに詰め込んだ。



僕の将来、か。



僕は、おばさんに言われたことをぼんやり反芻していた。



でも、やっぱり一度決めたことは曲げられなくて、



でも、そんな僕を、



おばあちゃんは冷たく突き放した。



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