じんちょうげの花咲く頃
第4章 新しい季節へ…
何事か、と、
すれ違う人がチラチラと僕たちを見ていく。
「あんたの言う通り、地元にもいい大学はある。そのうちノーベル賞をとるぐらい優秀な人が出てくるかもしれん。んでも、私が言いたいがはそういうことじゃないんや。」
「おばあちゃん…?」
「こんな若いもんが寄り付かんようなとこにあんたひとりでおってみ?私みたいに老い先短いもんばっかりやから、どうしたって、若いもん宛にしとうなる。そんなもんの言うことをハイハイ聞いとるうちに、あんたもそのうち年を取る。」
「な、成海さん、お、落ち着いて?」
病み上がりなんだから、と、宥めるも、
全然他人の話を聞く状況なんかじゃなかった。
「だから、思いきってここを出て好きなことやれ言うとるんや!お母さん、もう、おらんのやから、せめて私の言うこと聞いて?な?」
「でも…」
「私やうちの人があんたら親子にしたったことは、可哀想やったからやない!!」
興奮して僕の体を強く揺するおばあちゃんの手を叔母さんの細い手が食い止める。
「人として当たり前のことしただけなんや。だから…」
「成海さん、もうこのぐらいにして、もう、お家の方へ行きましょ?ね?」
と、肩で息をするおばあちゃんの体を労るように肩に手を添えて病院の玄関へ歩き出した。
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