じんちょうげの花咲く頃
第1章 じんちょうげの花咲く頃、君と出会う。
その日は突然やってきた。
僕はその日、
休みだったはずのバイトに行くことになって、
飼い犬のシロの散歩を母さんに頼んで、学校から直接バイト先に向かった。
もう、あと少しでバイトも終わり、という時、
切羽詰まった様子の成海のおばあちゃんから電話がかかってきて、
母さんが夕方、シロの散歩に出たまま、未だに帰ってきていない、と言うのだ。
もう、九時なのに…。
しかも、なぜかシロだけが、
家に戻ってきたらしい…
何だか胸騒ぎがして、
バイト先に頼み込んで、少し早めに上がらせてもらい、家路を急いだ。
途中、携帯が鳴って歩道に自転車を停めた。
母さん…?
慌てて電話に出ると、
成海のおばあちゃんがやっぱり慌てた様子で僕に言った。
「零ちゃん、今どこ?」
「今、家に向かってる。どうしたの?」
「あのね、お母さん、病院におるんやて。待っとるさかい、一緒に行かんか?」
「分かった。もうすぐ着くから待ってて?」
「気ぃ付けて帰って来な?」
…何だろう?
詳しいことはよく分からないけど、
イヤな予感しかしない。
僕は、言い知れぬ不安を抱えたままペダルを漕いだ。
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