じんちょうげの花咲く頃
第5章 じんちょうげの花咲く頃、君に会いに行く
智side
「ふーん。結局落ち着くべきところに収まった、ってことか…。」
翔「そうなんだよ?」
と、嬉しそうに頷く翔に、俺は静かに寄せては返す波に揺れる釣糸を見つめたまま呟いた。
「で?どーすんだ?あの二人のこと?」
翔「どうする、とは?」
「惚けんな。お前、零を寄越せ、って言ってたじゃねぇか?」
翔「えー?言ってましたっけ、そんなこと?」
「お前な…ふざけてっと海に落とすぞ?」
翔「俺の方からそんなお願いしなくても、本人の方から言ってくると思うよ?『お父さん、僕、お婿に行きます』って?」
「………」
こいつ、マジで海に突き落としてやろうか、なんて考えながら、いつまでたっても反応しない釣竿を睨み付けた。
翔「あ、それはそうと、父さんから預かってきたものがあったんだ。」
「親父から?」
翔は胸ポケットから何やら取り出した。
翔「はい。」
手渡されたのは、白い粉が入った小さな小瓶。
「これは?」
翔「成海さんの…兄さんの父さんのお墓に一緒に埋めてやれ、って?」
「母さんの…」
俺は、反応する釣竿もそのままに、
時間のたつのも忘れたように手の中の小瓶を黙って見ていた。
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