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じんちょうげの花咲く頃

第5章 じんちょうげの花咲く頃、君に会いに行く



「親父、具合どうだ?」


翔「元気だよ?入院してんのが不思議なぐらい。」


「そっか…」



はるか水平線の向こうにいるはずの親父に想いを馳せるように、遠くに目をやったまま小瓶をポケットにしまった。



翔「それと、もう一つ。」


今度はズボンのポケットから黒の小袋を取り出す。



その中に入っていたのは、やはり白い粉の入った小瓶。



翔「それは零から預かってきた。」


「………。」


翔「水澤の墓に納骨される前に、零がこっそり持ち出してたんだ。」


「そいつは……預かっといてくれ。」


翔「は?」



再び小瓶を黒い小袋の中に収め、翔の手の中に戻した。



「とにかく今はダメだ。俺の手元に置いておくことはできない。」


翔「今は…って、どういうこと?」


「ケジメつけようか、と思って…」


翔「じゃあ…」


「十年以上、黙って俺の側にいてくれたんだ。」



釣糸を引き上げ、まんまと獲物に逃げられたことを確認したあと、再び釣糸を海に投げ入れた。



「俺が死んだら、樹里に内緒で俺の墓に埋めてくれ、って、零に言っといてくれ。」


翔「でも…それ、って…」



しばらく俺の隣で難しい顔をして腕組みをしたあと、



翔がぽつり呟いた。





翔「それ、ってさあ…今、こっそり持ってても同じことじゃないかな?」



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