マリア
第1章 葬送曲
翔side
智「人間の今のこの姿なんて、魂の入れ物じゃん?」
ねぇ?と、
智はお茶を一気に飲み干す。
コトリ、と、
空の湯呑みをテーブルに置くと智は、
激しさを増す雨の中、もうもうと煙突から立ち上る黒煙を黙って見ていた。
バスがセレモニー会館に戻ってきて、
礼音の遺影を抱えた智が俺に駆け寄ってきて耳元で囁いた。
後で連絡する、と。
意味深に絡み合う俺たちの目線を、
遺影の中の彼女が黙って見つめていた。
あんなに激しかった雨も上がり、すっかり薄暗くなってしまった公園に俺はいた。
公園の奥まった場所にあるベンチの側でスマホを弄りながら。
いつもだったら座って待っている筈のベンチだけど、
雨が上がったばかりで雨粒が滴り落ちていて、座る気になれなかったし。
やがて、草木を踏みしめる音がして、
ラフな服に着替えた智がゆっくり近づいてきた。
そして、俺と目が合うとうっすら笑みを浮かべ、俺の手を取り、指と指を絡めた。
智「行こ?」
智に導かれるまま歩き出す。
そうして鬱蒼と木々が生い茂る中にポツンと佇む、
少し古びた公衆トイレに入っていった。
作品トップ
目次
作者トップ
レビューを見る
ファンになる
本棚へ入れる
拍手する
友達に教える