マリア
第6章 練習曲
あの夜礼音が病院に運ばれてから僕は、一度も礼音の病室へ行ってない。
と、いうか、行けなかった。
一応、足は病院に向くものの、
礼音の病室の近くまで来ると、
僕の足はそこから一歩も前には進まなかった。
どうにか病院までは辿り着くことは出来るけど、
やはり、礼音の病室まで行くことは出来なかった。
その日も、
僕は大きなため息をつくとくるり、と踵を返し元来た道のりを戻ろうとしていた。
ふと、顔を上げると、
向かい側から、一心不乱にゲーム機を操りながらこちらに向かって歩いてくる二宮くんの姿が見えた。
和「あら、誰か、と思ったら…」
「こんにちは。」
和「え…と、確か、妹ちゃん、退院したよね?」
「また入院したんだ。」
和「…ヤバいの?」
「そうじゃないけど…」
和「の、わりには暗いじゃない?」
二宮くんは、ゲーム機をカバンに仕舞うと、
僕たちは、二宮くんの進行方向へ一緒に歩き出した。
和「ちょっと待っててもらえます?」
僕らがやって来たのは心療内科の待ち合い室。
受け付けをすませると、
二宮くんは僕の隣に座って、カバンの中からゲーム機を取り出した。
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