笑い、滴り、装い、眠る。
第16章 a little guy
智side
「あ、あの…」
翔「ん?出来た?」
櫻井さんが身を乗りだし、僕の手元の問題集を覗き込む。
瞬間、フワリといい香りが鼻腔を擽って不自然に胸が高なった。
翔「うん。全部あってる。」
「ほ、ほんとに?」
顔を上げた櫻井さんと至近距離で目があって、慌てて目を逸らした。
翔「やればできるじゃん?」
櫻井さんは素っ気ない態度を取る僕に向かって明るい声で誉めてくれた。
翔「じゃあ…次、これ、やろっか?」
「は、はい……。」
脇に避けてあった問題集の山から無作為に取り出した一冊を手渡された。
翔「これが終わったら理科の問題集やろうか?」
櫻井さんの笑顔に見惚れているのも束の間、
厳しい現実を突き付けられ落ち込んでしまう。
翔「大丈夫?」
肩を落としたまま頷く僕の顔を心配そうに覗き込む。
翔「じゃあ、さ、これ終わったらちょっと外出よっか?」
「え?」
そんなこと、お母さんが許してくれるわけ…
翔「俺の息抜きに付き合って欲しいんだよね?」
僕の頭をぽんぽんするその笑顔に、少しだけ元気が出た。
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