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笑い、滴り、装い、眠る。

第7章 雨の日は家にいて



「あ…あの潤…僕、もう…」



流されそうになる自分を戒めるみたいに、自分より厚い胸板をそっと押し戻すもびくともしなくて、



逆に抱きしめる腕の力が強くなる。



「誰かに見られたら…」


潤「…いいじゃん。見られても?」



その言葉に驚いて見上げた僕と、熱っぽく見下ろす潤と目が合う。



潤「限界なんだ、もう…」


「どういう…こと?」



僕の疑問が苦笑いで流されてしまう。



潤「分かるワケないか…」



濡れて額や頬に張り付いた髪を潤の指先がそっと掻き上げてゆく。



潤「ちゃんと言ってないし…。」



このあと、潤が僕に言ったことが、行き過ぎる車の水飛沫の音のせいでよく聞き取れなかった。



なのにナゼか、その言葉は朧気に耳に焼き付いていて、何年も前のことなのに今でも反芻することがある。



「好きだよ」って。



潤、ゴメンね?



君は僕の目を見てちゃんと言ってくれたのに、そこだけ靄がかかったように記憶が曖昧になってて。



でも、その日のその出来事をキッカケに、僕の気持ちは急速にキミに傾いていったんだ。



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