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スパダリは1日にして為らず!

第1章 それは何かの間違いです


テーブルの上にある、朝に早川が置いていった5千円札を手に取って悠季を振り返った。

「使ってないけど、食事はどうしたの」

ー…ああなんだ、そんな事か。

「自分の財布から出しました。大した金額じゃないし」
それに、何となく使い難かったのもある。

遙斗の分だけ買えば良かったのかも知れないが、何だかそれも当て付けるようで気が進まなかったのだ。

「ちゃんと使って構わないんだから、変な遠慮はしないで。えーと、レシートある?…ああ、いいやめんどくさい」
「え?」

はい、とそのまま手に渡された5千円。一体どういう事でしょうか?と早川を見上げたら

「ちまちまするのもなんだからお昼代として受け取って」
にっこりと、うっかりドキドキしそうな顔で微笑んだ。

「だ、ダメです!多すぎます!」
「なら手間賃」
「手間じゃないです」
「だって、ハルと一緒に行ってくれたし」
「そこは当たり前ですから」

受け取ってくれ、いやいらないと何度か繰り返すうちに、漸く早川も諦めたのか小さくため息を吐いた。

「初日から嫌な空気も嫌だな。…悠季くん、お試しとは言え決め事作ろうか」

確かに、朝は慌ただしくて何も話さないままスタートしている。
お試しだろうが何だろうが、きちんと話さないといけない事に、悠季もすぐに頷いた。


ー…つか、俺ホントに働くの?ハウスキーパーなんて向いてないだろ

泊まる荷物を持ってきていながら、と言う気もしないでもないが。



早川の言う決め事はたった1つ。

・遙斗にも関わる金銭に自分のお金は使わない事


ー…それ、決め事なんて大層なもんじゃないじゃん

早川の真面目な口振りに、悠季は思わず口許を綻ばせた。



自分の間違いから始まった新しい仕事と生活は、どことなく楽しそうな予感が悠季を包み込んでいた。

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