スパダリは1日にして為らず!
第1章 それは何かの間違いです
「はい」
3回程のコールの後、聞こえてきたのは会社名も名乗らない短い一言だった。
最初に、そこで何かがおかしいと気付けば良かった。
全国展開の有名な大手宅配会社が、こんな粗雑な電話対応などあり得ないと言う簡単な事に。
けれど悠季は逸る気持ちの方が先走っていて、相手を確かめる事なく「バイトの募集を見たんですが」と捲し立てるように先方に告げていた。
「…バイト?」
電話越しでも分かる、響く低音が耳に心地好い。
そんな事をぼんやり考えながら、言葉を続ける。
「はい。まだ募集してたら面接をお願いします」
家から5分、時給1250円。まだ誰も採用されていませんように!
「…君はいくつかな?」
「あ、年齢ですか?俺…いえ、僕は19歳です」
「学生?」
「いえ、フリーターです」
だから時間も曜日も縛られないですよー!、などと脳内アピールをしながらも、まずはとにかく面接にこぎつけたい気持ちで一杯だった。
受かるも受からないも、面接が出来なければどうしようもない。
「…バイト、ではないがまあいいか。君、これから時間ある?」
「はい!今すぐでも大丈夫です」
バイトではない、と言う言葉に一瞬引っ掛かりはしたものの、面接して貰える喜びの方が勝った悠季は、相手の伝える住所をメモ書きし「1時間くらいでお伺い出来ると思います」と、通話を切った。
「…ん?」
改めて住所を見て、宅配会社とは全く違う住所だと気が付いた。
しかも5分どころか自転車でも30分はゆうに掛かるそこはただの番地で、会社の場所ではない気がする。
何となく嫌な予感がしてスマホで検索してみたら、案の定宅配会社どころか、引っ掛かる会社名すら存在していなかった。
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