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短編集

第11章 『北斗の男2』

修行したんですよ。
こないだね。

人差し指だけで、どこまで真っ直ぐ進めるか?
試したんですよ。

家を出発しましてね。
徒歩ですよ。
誰と?
…って聞かなくても知ってるでしょ。
一人です。
もう。

すぐに横断歩道に差し掛かりましてね。
歩道は赤信号ですよ。
私は修行の身ですから、渡ろうとしたんですよ。
真っ直ぐ。

そしたらね、お巡りさんに注意されましてね。
「渡るなら、押しボタンを押して下さい」
と。
いわゆる押しボタン式信号機というやつですよ。

私は聞き返しましたよ。

…押していいのか、と。

「押していいに決まってます」

…ほんとに押していいのか、と。

「いいですよ」

…じゃあ、押すぞ、と。

「お好きにどうぞ」


俺は本気だ、どうなっても知らないぞ!

『ほあっ…っ!!』


と、私が人差し指で押しボタンを突こうとしたとき、小学生が先にボタンを押したんです。

間一髪ですよ。

何が?

って、私がボタンを突いたら信号壊れちゃうでしょ!
すぐに御用だ、御用だで捕まっちゃうじゃないですか!

危なかったです。

売り言葉を簡単に買ってはいけません。

心の修行になりました。

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