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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第4章 求め合う心

 梨花を見るときの粘着質な視線を思い出すだけで、思わず総毛立つようだ。あんな眼をずっと以前、見た記憶がある。そう、十年前、両親を殺した男たちに拉致された時。
 あの男たちの一人が自分に向けてきた視線とひどく似ている。まるで蛇が狙いを定めた獲物を遠巻きに眺めているような嫌らしげな視線だ。
 この家僕だけではなく、実は尹家に仕える若い下男たちの多くは梨花に熱い視線を送っているのだが、奥手の梨花はまるで気づいていない。
 十六歳の梨花はまだ男女の事については何も知らず、己れの並外れた美しさも全く意識していなかった。木綿の質素なチマチョゴリではあるが、ピンクの娘らしい明るい色目は梨花によく似合っている。
 まだ成人前の彼女は長い黒髪を編んで後ろに垂らしている。梨花が袖をまくり上げ、白い腕を惜しげもなく晒して洗濯している姿を実は大勢の下男たちが物陰からひそかに眺めている―そのことを梨花は全く知らない。

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