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　梨花は元々、人好きのする娘だ。思いやりのある優しい少女なので、自然と朋輩たちとも仲好くなった。そうなると、家僕も梨花には迂闊に手が出せない。
　梨花は次第に尹家の屋敷での生活に馴染んでいった。
　その日、漢陽の町には朝から鉛色の雲が幾重にも低く垂れ込めていた。梨花が新しい生活に入って、既にひと月が経とうしていた。
　十二月に入り、寒さはいっそう厳しさを増した感がする。この分では、ほどなく都にも初雪が降るだろう。その日はまさに、そう思わせるような陰鬱な空模様であった。
　梨花は昼下がりに言いつけられた用を果たすために、屋敷を出た。尹家の夫人、つまり南斗の母の遣いで夫人の妹の嫁ぎ先まで届け物をしに出かけたのである。
　夫人の妹もまた、羽振りの良い商人の家に嫁いでおり、南斗と歳の近い三人の子女がいるそうだ。―と、これは、親しくしている女中仲間から仕入れた情報だ。