遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~
第1章 燐火~宿命の夜~
だが、忠実無比で優しかったスンチョンは微動だにせず、溢れ出す血は止まるどころか勢いを増している。
「スンチョン、死なないで」
梨花はスンチョンの身体に顔を押しつけて泣いた。背中からばっさりと斬られたようで、背中に大きな傷が走り、血はそこから迸っている。梨花は白の夜着が血濡れるのも構わず、自分の小さな手で傷痕を押さえた。
そうすれば、溢れる血を少しでも少なくできると考えたのは、やはり利口とはいえ幼い子どもであった。
母よりも身近だったスンチョン、夜通し、傍にいて見守っていてくれた優しい乳母。
その乳母はもう眼を開けることもなく、微笑むこともない。幼い梨花にも、乳母の身体から既に魂が出ていってしまったことは自ずと知れた。
「―るさない。許さない」
梨花は血まみれのスンチョンの身体を抱き、男たちを睨みつけた。
「スンチョン、死なないで」
梨花はスンチョンの身体に顔を押しつけて泣いた。背中からばっさりと斬られたようで、背中に大きな傷が走り、血はそこから迸っている。梨花は白の夜着が血濡れるのも構わず、自分の小さな手で傷痕を押さえた。
そうすれば、溢れる血を少しでも少なくできると考えたのは、やはり利口とはいえ幼い子どもであった。
母よりも身近だったスンチョン、夜通し、傍にいて見守っていてくれた優しい乳母。
その乳母はもう眼を開けることもなく、微笑むこともない。幼い梨花にも、乳母の身体から既に魂が出ていってしまったことは自ずと知れた。
「―るさない。許さない」
梨花は血まみれのスンチョンの身体を抱き、男たちを睨みつけた。