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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第1章 燐火~宿命の夜~

 このまま、こんな場所にスンチョンを置き去りにしては行けない。たとえ望みはないとしても、医者に診せなければ、もし儚くなったのだとしたら、弔いを出してやらなくては。
 梨花はスンチョンから離れまいと、渾身の力で抵抗を試みる。
「煩せぇな。おい、黙らせろや」
 狐面の男が言い、ミンスがそんざいに頷いた。
 刹那、鳩尾に軽い衝撃を憶え、梨花の視界は空を覆う闇の色に染まった。意識が急速に薄れてゆく。
 スンチョン、スンチョンッ!!
 それでも、梨花は乳母の名を心で叫ぶ。
 優しかった乳母の顔、父母の笑顔、そして、最後に瞼に浮かんだのは仲好しの兄の顔だった。

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