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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第5章 凍れる月~生涯の想い人~

「その応えも全く正直で良いな。いかにも、そなたらしい考え方だ。だが、男にとっては少々物足りない。男たるもの、惚れた女に玉の指輪くらいは贈りたいものだぞ?」
 からかうような物言いにも、梨花は泰然と構えている。
 南斗はよく何かと戯れ言を口にしては梨花をからかう。いちいち振り回されていては堪らないので、最近は上手くかわす技も身につけた。
「それはお生憎さまでした。若さま、起き抜けからご冗談はほどほどになさって、さっさとお顔を洗って下さいませ」
「そう口煩く申すでない。小言ばかり口にしておったら、折角の可愛らしい顔が台なしだ。今日の雪景色は殊更見事なものだが、そなたの麗しさには到底敵わぬ」
「良い加減になさって下さい!」
 梨花は幼児を窘めるように言うと、南斗の前に金盥を差し出した。

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