遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~
第5章 凍れる月~生涯の想い人~
「若さま、今、何と―」
「先刻も言ったように、私は一日も早く、そなたを私のものにしたい。それに、いつまでも、こうして人眼を忍ぶのもいやなのだ。そなたに肩身の狭い想いをさせず、二人でいても、堂々としていたい」
幾つもの夜を集めたような黒瞳はどこまでも真摯だ。
梨花は南斗の漆黒の瞳から視線を逸らした。
「若さま、それは無理です」
「何故?」
梨花の顔を覗き込もうとする南斗から逃れるように、彼女は小さくいやいやをした。
「私を困らせないで下さい。私は尹家にお仕えする女中にすぎないのです。どんなに頑張っても、若さまの奥さまにはなれません」
梨花の頬を涙の雫が濡らした。先刻、荒れた手を綺麗だと言って貰えたときに流したのは嬉し涙だったけれど、今は哀しみの涙だ。
「先刻も言ったように、私は一日も早く、そなたを私のものにしたい。それに、いつまでも、こうして人眼を忍ぶのもいやなのだ。そなたに肩身の狭い想いをさせず、二人でいても、堂々としていたい」
幾つもの夜を集めたような黒瞳はどこまでも真摯だ。
梨花は南斗の漆黒の瞳から視線を逸らした。
「若さま、それは無理です」
「何故?」
梨花の顔を覗き込もうとする南斗から逃れるように、彼女は小さくいやいやをした。
「私を困らせないで下さい。私は尹家にお仕えする女中にすぎないのです。どんなに頑張っても、若さまの奥さまにはなれません」
梨花の頬を涙の雫が濡らした。先刻、荒れた手を綺麗だと言って貰えたときに流したのは嬉し涙だったけれど、今は哀しみの涙だ。