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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第6章 兄の心

 二人は探すまでもなく、見つかった。
 扇子屋と靴屋が道を挟んで向かい合って建つ四ツ辻まで走ってきた時、人気のない靴屋の店先でしっかりと抱き合う二人が眼に入ったのだ。
 束の間の抱擁を交わした二人は、やがて、どちらからともなく唇を自然に重ねた。
「―」
 ソルグクは、最早、言葉がなかった。人眼もはばからず烈しい抱擁と口づけを続ける二人の姿には、もう何人も立ち入る余地はない。
 二人は靴屋の主人がわざとらしい咳払いをするまで、ずっと抱き合っており、妹は泣いているようだった。
 ソルグクは見ておられず、まだ何やら話している二人を残して、そっとその場を離れた。

 

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