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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第7章 哀しい現実

「そんな馬鹿な、あり得るはずがない」
 烈しい驚愕が南斗を襲っているのが判った。いつも冷静で穏やかなこの男がここまで感情を露わにするのを見たことがない。
 ソルグクは、痛ましい想いで強ばった南斗の顔を見つめた。図らずも真実を知った南斗の愕き様は、ジュソンからその苛酷すぎる事実を知らされたときの自分の反応と全く同じだったからだ。
「俺に真実を教えたのは、ジュソンという男だ。五十年配の、かつて林家に仕えていた家僕だと名乗っていた。俺も流石に、そんな話はあり得ないだろうと思ったよ。まさか、実の血を分けた兄と妹がそれと知らずに出逢い、恋に落ちるなんて、物語の中の話でもあるまいに」
 その時、ソルグクには最早、南斗に対する憎しみも妬みも何もなかった。ただ、宿命(さだめ)を呪っているばかりだった。
 血の繋がった妹と兄を引き合わせた労しい宿命―。

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